2013年11月15日金曜日

厚顔無恥



日本の経済が飛ぶ鳥を落とす勢いで成長し続けていた80年代半ばから、私は小さな旅行社を経営していた。いちげんのビジネスマンから予約が入る事が度々あったが、彼らは皆威風堂々としていて、自信に溢れた声で〇〇銀行の××だが、〇〇商事の××だ、と名乗って予約を入れてくる。当方としては宿泊先のホテル名と部屋番号、そしてフルネームと参加者の人数だけで用は足りるのであるが、こちらから伺ってもいないのに必ず会社名を名乗るのである。
 
ツアーに参加してくる日本では一流といわれている企業戦士の大半は、こちらの方から丁寧に挨拶をしても最後まで一言も喋らないタイプの人と、終始不遜な態度で接してくるタイプの二つに分けられた。
 
同じ時期に、米国に進出しようと目論んでいる地方の中堅企業の取締役が、弊社とコンサルタント契約を結ぶ前の折衝の席で、事業展開の詳細は後回しにしておいて、次から次へと私に名刺をくれるのである。それらの名刺には〇〇会社の社長、顧問、相談役などの肩書きが添えられてあり、いかに自分は信用があって地位の高い者であるかを、一刻も早く私に知らせるためであった。
 
このように、自分よりも社会的地位が下であろうと思わしき人間には、最初に威圧しておいて、自分が主導権を握ろうとするのである。先の副将軍、水戸光圀よろしく「この紋所が目に入らぬか」とでも言いたいのであろう。
 
私は仕事柄、米国を訪れる日本人起業家の相談に応じる事がある。彼らは一応に手土産を携えて私のオフィスを訪ねてくる。やがて意気投合すると夜は食事の接待にあずかる。酒が入ると気が大きくなって饒舌になるので、彼らは益々大風呂敷を広げるのだ。
 
だが、私がコンサルタント契約の話を切り出すと、殆どの日本人が尻込みするのである。土産と飲食だけで私を釣り上げておいて、事業が軌道に乗りだしたら利益を分配するあんばいでいるらしいが、基本的なことからビジネスプランを改革しなければ、厳しい契約社会のアメリカでは99.99%事業の成功はあり得ない。
 
水と安全と情報が無料で得られると信じきっている日本人は、私たちが蓄積したデータベースから人脈、そしてありとあらゆるノウハウを、飲み食いだけで手に入れようとするのだ。ましてアメリカで日本語のサービスが受けられる事すら、あたりまえだと思っている。
 
ところが、白人に少しでも親切にしてもらったり、仕事上の便宜を図ってもらうと、大層満足して法外な報酬を渡してしまう。このように国際感覚が欠落しているコンプレックスの塊に、グローバルなビジネスは不適応である。
 
揚げ句の果てに私たちを散々活用しておいて、幸先が悪くなると日本へ連絡を入れても梨の礫である。数多のコネクションと複雑な内幕交渉の知識をサポートして来た甲斐なくして、アメリカサイドでは関連企業との対応に追われて、彼らの尻拭いをする羽目となる。人の情が分からない厚顔無恥な同胞の振舞いは、多くの人の心に深い傷を刻むことになる。

3 件のコメント:

  1. この話を読みながら そういえばむかしいろんなところから聞いたなぁと懐かしく思い出します。
    読み終わってから 頭のなかに浮かんだことは さきの大戦の話。負けるはずのない?戦争に負けてしまった日本。そうなんです いつのまにか日本は負ける戦争をしてしまったと オオバカものになってしまたんです。ミッドウェイーまでは戦力ではアメリカの倍あったということを知らない方々が多い。
    厚顔無恥というか 現場にいるがゆえに恐くて最後の押しができずに 機会を逃がしてしまった。エリート集団の結末です。日露戦争までは武士が戦っていたのに成績重視になり武士道精神は声だけ
    いまもそれが日本のなかに脈々といきずいてる日本  アァ~。

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  2. 度々、コメントを頂いてありがとうございます。匿名さんは社長さんですか、お忙しいのに、それとも暇な時期。

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  3. 私2足の5本指の靴下を履くものです。
    ある日 自分の机の上をきれいにしていたら 従業員から身の回りの整理ですかと言われたり 3つのものを5つにわけてるだけだと言われたり 全く社長としての威厳がありません。 厚顔無恥をすこしでもせんじて飲みたいと思いますが時間がないので 時間を探してはコメントをして 新井さんの厚顔の10%でもほしくてコメントしてますが アッイヤイヤ新井さんは謙虚名方でした アッそろそろ時間が来たのでまたこの続きはのちほどに、、、。最近忘れぽっくなってきたんで 忘れる可能性も少なからず、、、  ゴメンナスッテ

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