2011年12月8日木曜日

ESSOのガソリンスタンド 小野十三郎

ドラセナの鉢植のそばで
毒液みたいな
コーラを飲んでいた。
ガラス越しに
野末の太陽が見える。
いびつな冬の太陽は
吹きちぎれるような炎を噴いている。
とまったスポーツカーから
パタンと勢よくドアを閉めて
赤ジャケツ、黒眼鏡のあんちゃん一人降りてくる。
世界を背に
肩をゆすって
おれの方にやってきた。
「西の京へはこの道まっすぐか」
うなずくと
「ええんだとよう」
車の女に合図した。
女も黒いサングラスをかけている。
また、パタンと大きな音がした。
太陽もろとも
車は唐招提寺へまっしぐら。

山野辺の道に
ガソリンスタンド一つ。


小野十三郎は「短歌的抒情の否定」によって、現代詩の成立を唱えた詩人として有名である。生前、小野さんは人間を描くのが苦手であると語っておられたが、『ESSOのガソリンスタンド』に登場する「あんちゃん」などは、実にリアルに描かれている。

晩年になって、小野さんは詩を書くこが益々愉しくなってきた。と語っていたが、若い頃からスケッチ風の詩作を試みていたようだ。その代表格として、『ESSOのガソリンスタンド』を取り上げてみた。

平易な詩なので解説は不要である。小野さん独特の詩のリズムが、読む者の心を捉えてはなさない。何の変哲もない一状況のスケッチである。この詩の面白さは作者である「おれ」と、「あんちゃん」との対比にある。「おれ」は詩人であるのだが、無政府主義者の小野さんらしく、文脈には反社会的な「気配」が浮遊している。

最後の二行は落ちがついているみたいで、個人的にはあまり感心しない。だが、これも小野さんの遊び心の表れなのかもしれない。

小野さんと最後に酒を酌み交わしたのは、詩人、池田克己の未亡人が営んでいた天王寺(大阪)の場末にある屋台であった。また、近隣にある飛田遊郭で、小野さんを囲んで座談会をしたことが、ついこないだのように思える。

1996年10月8日、日本詩壇の長老、小野十三郎歿、享年93。

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