2011年12月20日火曜日

鉄火巻ブルース

僕が中学2年の時、上六にある「やまたけ」(肉屋)の隣りあった映画館に、莫逆の友と二人でオールナイトの映画を観に出かけた。先ず、映画館近くの鮨屋で、鉄火巻をテイクアウト。窓口でチケットを購入して、入り口を入った途端に、映画館のおっちゃんに呼び止められた。
「あんたらいくつやねん、あかんあかん!」
入場料は払い戻された。

「チェツ、うまくいったと思ったのに」友がため息交じりに呟いた。エロ映画を観そこなった友と僕は、生國魂(いくたま)神社の境内で裸電球の街頭の明かりで、鉄火巻をぱくついた。

神社の周辺にはラブホテルが密集している。鉄火巻を食べ終わって立ち上がろうとした時、友が、「待て、しーっ」と声を押し殺した。

しばらく二人で耳を澄ましていると、かすかに女の嬌声が聞こえてくる。友と僕は、声の聞こえる方へと近づいて行った。暗くてよく見えない。今度は男の声がした。男女とも鼻息が荒くなってきた。堪えきれなかったのか、女は細くて艶めかしい奇声を闇夜に軋(きし)ませた。

翌日、父が会社の帰りに、お土産を買ってきてくれた。僕の大好物のお鮨だ。折箱の蓋を開けると鉄火巻がぎっしり、正にすし詰め状態。握り鮨を期待していたのに…… んもうー。

僕は鉄火巻を頬張ったあとで、昨晩のことを回想して、即興で作った鉄火巻ブルースを鼻唄で歌った。

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