2011年10月14日金曜日

「いわしの頭(かしら)も信心から」とは、つまらないものでも祈念すれば、ありがたく思えることをいう。奈良町を中心とした奈良市東部には、この諺が題名となっている昔話が伝えられている。
 
「魚」偏に「弱」と書いて鰯(いわし)だが、鮮度落ちの早い鰯は、漁師たちの間では「弱し」と呼ばれていた。やがてそれが転じて「鰯」となった。
 
弱し魚を、素早く売りさばこうとする関西の鮮魚店では、「手々かも鰯」の掛け声で、活きの良い鰯をアピールしていたが、関西地方特有の秋の風物詩が、着実に姿を消しつつある。
 
生臭さを食べぬ戒めを、鰯のようなつまらぬ魚をうっかり食べて破ることを、「鰯の精進落」と言うが、捕れたての背黒鰯の刺身をしょうが醤油で食べてみると、鯛も鰤(ぶり)もトロも裸足で逃げ出してしまうほどの旨さだ。
 
また、日本列島近海で初夏(6月頃)に水揚げされる入梅鰯の味も、格別である。
 
健康志向の反映で青魚が見直されている。青魚の脂質成分であるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)には、血栓形成防止や血中コレステロールの増加抑制に効果がある。
 
歴史上の人物で、鰯に目が無かったのが紫式部である。家康や秀吉にいたっては、出陣した鋭兵たちに鰯を食べさせて、栄養の供給源としていた。
 
世界の鰯料理にはオリーブ油に漬けたものや、塩漬けにしたもの、そして日本の煮付けなどがある。また、脂のよく乗っている鰯に塩をふり、炭火で焼くだけの「鰯の炭火焼」(Sardinhas Assadas)は、ポルトガルで最もポピュラーな鰯の食べ方である。
 
さて、今晩の夕餉は、鰯の刺身か鮨にでもするか、或いは目刺し、丸干し、日干し、シラス干し、みりん干、ごまめ、ちりめんじゃこ、たたみ鰯、それとも佃煮にでもしようかと、鰯ワールドに耽ってみた。
 
トラックに荷揚鰯がどしゃ降れる(榑沼けい一)。きょう(10月4日)は、イワシの日。(2005年10月に記す)

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