2011年10月1日土曜日

豆腐

僕が子供のころ、父とよく京都へ赴いた。僕も父も、お寺を巡り歩くのが好きであったから。京阪電鉄の七条駅で下車して、三十三間堂を皮切りに、清水寺、平安神宮、知恩院と周って南禅寺に夕刻までにたどり着く。時折コースは変更した。

南禅寺に到着するころには、夕餉を頂くには頃合いの時分になっている。南禅寺と言えば湯豆腐で名高い。往時の湯豆腐セットは、確か湯豆腐と山菜天ぷらの組み合わせだった様に思う。

15、6年前に、京大会館於いて学士会主催の勉強会に主席した際に、隣り合わせになった湯川スミさん(故湯川秀樹博士夫人)と知り合えた。

初対面なのに意気投合して、湯川スミさんと湯川さんの秘書と僕とで、南禅寺の『順正』で湯豆腐を食べた。生前の湯川博士は、豆腐が大層好きであられたとか。

貝原益軒の『養生訓』に、豆腐にまつわる記述を見つけた。「豆腐には毒があって、気がふさぐ」とある。煮えた豆腐を、大根おろしを加えて食べれば害はないと言う。

生前の父が食卓に豆腐が並ぶと、時折にこやかに囁いた。「お豆腐を好きな者は、幸福になれるよ」。

10月2日は豆腐の日。(日本豆腐協会が1993年に制定。10(とう)2(ふ)の語呂合わせ。)



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