2012年5月7日月曜日

五 月

      室生犀星

悲しめるもののために
みどりかがやく
くるしみ生きむとするもののために
ああ みどりは輝く。


1918(大正七年)、30歳の室生犀星は浅川とみ子と結婚。同年一月に『愛の詩集』を刊行。この詩集の序文に、犀星は自己の詩観を綴っている。

「自分の詩の根本は、苦悶でみなぎっている。自分の苦悶は永久で、泉のように無限であろう」

「五月」は、5年後に刊行した『青き魚を釣る人』の中に収められている。自然界の美しさは、煩悶する心の窓に、この上なく美麗に輝き、みどりは蒼翠に輝く。五月の新緑は苦悶する犀星の心を慰めたのである。

犀星の苦悶は永久で、泉のように無限だが、五月に輝く樹木の蒼翠も、「ああ みどりは輝く」、永久無限であると謳っている。

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