2012年3月5日月曜日

牡蠣(かき)

パリの発明展へ行ったことがある。最先端の技術を駆使したものばかりが、会場にひしめき合っている。このような先入観に囚われて展示会場を訪れた為に、会場に供覧されていた「牡蠣(かき)の殻開け器」を見るなり、立ち所に拍子抜けしてしまった。

この牡蠣の殻を開けるオープナーだけで、60余りのブースが出展していた。多種多様なオープナーは、そのほとんどが手動式で、家庭でも手軽に使える代物ばかり。斬新奇抜なオープナーは、どれもこれもがアーティスティック。フランス人は心底から生牡蠣が好きなのだ。と痛感したひと時であった。

つねづね怪訝に思っていたことであるが、欧米では魚介類を生食する習慣は少ないが、オイスターだけは例外であった。刺身よりも生牡蠣の方が、見た目も舌触りも食べづらいように思えるが、生牡蠣に目が無いのはラテン系に限らない。

本来、塩漬け、酢漬け、燻製などにしか親しみのないスカンディナビア諸国を始め、イギリス人もドイツ人も、滋養に富んでいる新鮮な牡蠣に心を奪われる。

生牡蠣の食用はギリシア時代まで遡り、ローマ時代に入るとラテン詩人のアウソニウスが、雪に詰めた牡蠣をローマ皇帝に献上している。

欧米における鮨ブームの成功には、彼らが生牡蠣を食していたという下地があったからこそ、刺身や鮨に対して、さほど抵抗はなかったのではあるまいか。

この度、この稿を書きながら改めて感じ入ったことがあった。パリジェンヌは食べることの楽しみを知り尽くしているせいか、飲食そのものを享受しながら、ダイエットする術を心得ている。一方、カリフォルニアの女性は、レストランなどで雰囲気を自適することに慣れている。時間をかけてゆっくり咀嚼することで、少量でも空腹を満たしていく。

くいしんぼうの僕はというと、パリを訪れる度に、シテ島に近い場末のブラッスリーで、ブロン産の牡蠣をしこたま平らげる。

パロディーの俳句を一句「牡蠣くえば鐘がなるなりノートルダム」

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