2012年1月27日金曜日

牛と豚

神戸の北野町で、異人館の油彩ばかりを描き続けてこられた小松益喜画伯がまだ壮健であった時分に、三宮にあるロシア料理のレストラン『バラライカ』へご一緒したことがある。

画伯は先ずボルシチを注文してから、すかさず「ロシアの豚漫」二人分を給仕に告げた。直ぐにピロシキの事であることが分かったが、具の挽肉は牛肉のはずだ。

豚バラ・ミンチが詰まっている中華饅頭のことを関東では「肉」まんと呼び、関西では「豚」まんと呼んでいる。関西人には奇妙に思えてくる一つである。

東京では「肉じゃが」も豚肉が主流となっている聞く。大阪あたりでは牛肉が常識だ。

東京に住んでいる畏友から教えてもらった。豚肉の入っている肉じゃがは、地域によっては「じゃがブー」と呼ぶ。

近畿地方には世界に名高い神戸牛を始め、松阪肉、近江肉、そして余り知られてはいないが、和牛の誉れとして高名な羽曳野牛(大阪)等の原産地が点在していたので、誰もが牛肉に親しむことが出来た。

一方、関東周辺には豚の名産地があったことから供給が安定していたことと、厳冬を迎える東日本では脂肪分の多い豚肉が好まれた。従って東日本では「肉」といえば「豚」のことをさした。

東のポークの生姜焼きと西のビーフ・カツは、何れも懐かしい味である。ロシアの文豪トルストイとゴーゴリはカツレツが大好物であつた。トルストイは来る日も来る日もカツレツを食べていたが、勤労意欲のない自分の姿を省みて、自給自足の生活に切り替えた。

物事には自制が肝要であると説き、『光あるうち光の中を歩め』を後に上梓する。屋敷を捨てて放浪の旅に出たトルストイは、1910年11月7日、アスターポポ駅(現トルストイ駅)で死去した。享年82。

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