2013年3月1日金曜日

僕の犬/アンドレ・スピール・堀口大学訳


僕の犬よ、
どうして僕にお前を愛したりが出来よう?
僕は今日ろくに仕事をしなかった、
僕は今日正しくなかった、
それなのにお前は僕を舐めようとかけて来るのだ!
一人の淫売婦が通りかかってお前を愛撫すると
お前も彼女を愛撫する、僕の犬よ、
肉屋の小僧が肉片を投げ与へると 
お前はうれしげに吠える、跳び上る、
小さな魂をしか持たない女中をさへ
お前は大きなやさしい目でじっと見つめるのだ。

僕の犬よ、
どうして僕にお前を愛したりが出来よう?



「僕の犬」は堀口大学の訳詩集『月下の一群』に収められている。ユダヤ系フランス人であったアンドレ・スピール(18681966)は、弁護士、ジャーナリストとして活躍しながら、風刺を得意とする詩人でもあった。代表的詩集に『ユダヤ人の詩篇』がある。

戦闘的ユダヤ主義者のスピールは、自堕落な一日を過ごした自分の魂を、どうしても許すことが出来なかった。淫売婦や肉屋の小僧、そして下女でさえ、きょう、自分たちがやるべき労役を終えてから犬を愛でている。犬の方はというと、人間に対して平等に優しいまなざしを投げつける。

しかし、「自堕落なこの僕には、犬を愛する資格はないのである」。スピールは失意の中で、動物を愛することの条件を、非常に厳しい水準にまで高めて自我に突き刺している。

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