2014年2月6日木曜日

祈り

十六年前、ノースキャロライナのEPA(環境保護局)へ新しい乳化剤の詳説をするために、クライアントと訪れることになった。アポイントメントのある前日がまる一日あいていたので、クライアントとゴルフをすることになった。

三人だったので、一人で来ていた現地のアメリカ人と一緒にプレイをすることになった。物静かでどことなく気難しそうな四十代半ばの白人である。ぼくはそのブライアンと一緒にカートに乗ってコースを周った。第3ホールを過ぎたあたりからブライアンはジョークを飛ばすようになり、お互いの気持ちが打ち解けてた。

暫くしてから、彼は自分の仕事のことや家族のことについて話し始めた。ブライアンはIBMのシンクタンクに籍を置くコンピューター・サイエンスの専門家で、著述家でもある。深く刻み込まれた眉間の皺と物静かな口調は聡明に映るが、はにかんだ時に見せるうつむいた目には、傷心を抱く暗い影が滲んでいた。

彼はポツリと身の上話をし始めた。タイランドの女性と結婚して四年後に離婚。二年後に再婚をしたのだが、離婚したことが今ごろになって悔やまれてならないと言う。

祭壇の前で「富む時も病む時も妻を愛し続ける」と神に誓ったはずなのに、前妻に対しても神に対しても、ブライアンはただ都合よく振る舞っていたことに気がついたのだ。どうやら二度目の結婚も、うまくいっていないように見えた。

コースを周りながら、カートを木陰に停めては二人で話し込んでしまうので、あとの二人から早く打つようにと度々催促される。ブライアンは今、自分の仕事に対しても大きな行き詰まりを感じている。そして複雑な人間関係に苦悩するこのごろであることをぼくに吐露した。

「人間なんて順風満帆の時は何も考えないさ。だけど、自分の能力ではどうすることもできない大きな試練にぶつかったときに、不思議と謙虚なって素直な気持ちになれる」
「ぼくには難しいことは分かりません。しかし、必ず神はあなたを顧みて下さり、前妻に対しても、ご家族にも、そしてあなたの仕事にも祝福を与えて下さいます。確信して祈りましょう」

涼風(すずかぜ)が時折頬を撫でる17番ホールの木陰で、ぼくとブライアンはカートに乗ったまま、こうべを垂れて短く祈った。

2 件のコメント:

  1. 体重が1ヶ月で7キロ減った経験アリ
    パン1枚ノドを通らないとき 信仰以外救いはなかったねぇ。
    営業回りながらグチを神様に言った時 神と約束100件回りますから祝福を下さいと
    翌日1件注文がとれた けど約束の100件を回り4件の取引先ができた。
    マイナスは感謝なとき

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  2. ご苦労様です。

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