遠くの景色を
みんなぼかして
ふわふわ美味しそうな色にする
さあ早くそれらを
かさかさとかき集めなきゃ
それ
僕の手の中で
横倒しになる森や屋根や煙突
世界は四角で木が一本だけ生えている
と思って死んでいった赤ん坊
その赤ん坊のそばの窓
早くその窓を閉めなきゃ
その戸が男の子の手で閉められたばっかりに
一生を台なしにした女
早くその戸を集めなきゃ
早くしないと
ある夕方
巨きな腕が
ゆっくり空を掻き
景色達はうっとり
その腕で空に溶けていってしまうから
早くしないと
さあ
2004年10月21日、腎不全で川﨑 洋さんが死去した。七十四歳だった。
今回は、川﨑さんの第二詩集『木の考え方』の中から、「早くしないと」を紹介させていただく。
まず、この詩を読んでみて、モティーフが希薄であると考えるのは間違っている。なぜならば失意がモティーフであり、焦燥と不安がテーマとなっているからだ。
当事者以外には、つかみ所のない日常の些細な出来事や、目に入るあらゆる風景や生物、そして人物などから、一見、希薄と思われる象徴詩が誕生する。
往時の川﨑さんは生活苦と闘いながらも、詩作においては諧謔(かいぎゃく)の精神を貫き、象徴的なポエジーに血路を見出していた。
即ち、川崎さんはこの詩を書く上において、モンタージュの技法からヒントを得ながら、周辺の美と焦燥を見事に謳いあげているのである。
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